千里救命救急センター 救急医長
夏川先生
さまざまな疾患を防ぐ上で、歯の健康を守ることは重要です
そもそも、人間の体は食べられなくなったら体力は一気に落ちてしまいます。
その理由は、栄養は取り入れるベストの方法は「口から摂取すること」だからです。
たとえば点滴を使う場合、500CCくらいのバッグひとつで補給できる栄養は、缶コーヒー1本くらいしかありません。
効率よく栄養を取るには、歯があることが大前提。歯がそろっている人は病気になりにくいですし、病気になっても回復が早いです。
体内に「炎症」を起こさないことも、疾患の予防では重要です
歯周病の予防が大事な理由がもうひとつあります。
それは歯周病が、炎症を引き起こすからです。
アトピー性皮膚炎やリウマチなども、炎症の一種です。
こうした炎症が体のどこかで起こっている間、体は他の病気への対応に集中できなくなります。
実際に歯肉炎は、軽い炎症を全身に波及させて体の抵抗力を妨げてしまうことが判明しています。
歯周病を経て、命にかかわる疾患に発展することがあります
私は救命を専門にしています。そのため、歯周病で歯を失い、さらに炎症の悪影響から重体に陥った方々を何度も見てきました。
歯の炎症が、そのまま首に降りてきて首全体に膿がたまってしまう「深頚部膿瘍」や、口の中の細菌が血流を通って心臓に達してしまう「感染性心内膜炎」は、その典型です。
これらの病気の治療は簡単ではありません。死亡率は高く、後遺症が残る確率も高くなります。
このような病気で運ばれてきた方のお口の中を確認すると、歯がほとんど残っていないことがよくあります。
普段から、口腔ケアに気を使うことの必要性を痛感します。
口腔ケアは「病気の被害を最小限にするための準備」になります
ブラッシングを中心にした歯周病の予防には、全身疾患の予防効果に加えて、病気になった際の被害を食い止める効果が期待できます。
これは炎症を抑えることにより、血中のアディポネクチンが上昇するためです。
車のシートベルトやエアバックを思い出してください。シートベルトには事故を防ぐ効果はないですよね? しかし、万一事故が起きてもその被害を最小化してくれるツールです。
ブラッシングは医療という観点からするとシートベルトをするのと同じで、病気になった際の被害を最小化する準備と言えます。口腔ケアは全身ケアにつながるというわけです。