歯周病が、数々の疾患の発症 or 悪化の引き金になることも
歯は全身の健康と切っても切れない関係にあります。食事をスムーズに行い、効率よく栄養を摂取する上で欠かせませんし、作業や運動の際に集中を高めるときにも歯の役割は大きいのです。
しかし、偏った食事、喫煙、寝不足など不健康な生活は、日常生活への悪影響を及ぼします。さらに不健康な生活が日々続くとだんだんと口の中が歯周病菌に冒され、さらには生活習慣病などのリスクを高めることにつながってしまいます。
・喫煙 ・偏った食事
・不規則な生活
リスクはこんなにあることが判明しています!
高血糖・糖尿病 |
糖尿病のリスク3〜4.2倍向上 |
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歯周病菌が繁殖すると、糖の代謝とインスリンの作用を妨げてしまいます。このため血糖値が上昇します。糖尿病が進行すると全身の免疫機能を低下させ、歯周病の進行を助けることになります。糖尿病と歯周病には相互に影響を及ぼしながら悪化していく、という特徴があるのです。
動脈硬化/脳血管疾患・心臓疾患 |
脳梗塞のリスク2.8倍向上 狭心症・心筋梗塞のリスク1.9倍向上 |
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歯周病菌が血管に侵入すると、体内を循環するようになります。血液内では、「アテローム」と呼ばれる脂肪の塊が蓄積されることがありますが、歯周病菌が、このアテロームを増やす作用を持つことが近年の研究で明らかになりました。
こうした事情から、歯周病菌は人体のあちこちの血管を狭くして、詰まらせてしまいます。これが動脈硬化の原因となります。
歯周病菌の活動によって、脳の血管や心臓を動かす筋肉のような、人体の中でもとりわけ重要な部位で動脈硬化が起こってもまったく不思議ではないのです。
誤嚥性肺炎 |
リスク1.74〜4.5倍向上 |
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唾液とともに歯垢が気管に入ると、歯周病菌が肺炎を引き起こすことがあります。
ものを飲み込む機能が低下した高齢者に多い疾患です。
厚生労働省の発表によると、日本人の死亡率の第3位は平成24〜26年の3年間を通して「肺炎」です。平成14年・19年のデータでは第4位だったことを考えると、現在の高齢者にとって肺炎のリスクは無視できないものであることがうかがえます。
2014年死因順位別死亡数 | |
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第1位 | 悪性新生物 |
第2位 | 心疾患 |
第3位 | 肺炎 |
第4位 | 脳血管疾患 |
妊娠トラブル |
早産リスク2.27倍向上 低体重児出産リスク2.83倍向上 |
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妊婦は女性ホルモンの影響で歯周病になりやすい傾向があります。
歯周病菌が血管を通って胎盤まで到達し、胎児にダメージを与えてしまう症例があることは、数々の研究から判明しています。
・がん ・腎炎 ・メタボリックシンドローム ・ピロリ菌感染胃疾患 ・関節炎 など
自覚症状をほとんどもたらさず静かに進行します!
歯周病との因果関係が深い疾患はバラエティに富んでいます。
となれば、悪化する前に症状に気づいて早期発見・早期治療をお勧めしたいところですが、歯周病は「サイレント・ディジーズ(≒静かに進行する病気)」という別名を持つ病気です。
歯周病のサインを正しく理解することと、
適正な予防法を普段から実践することが大切です。
清水 智幸(しみず ともゆき)
東京国際クリニック/歯科 院長
歯学博士。日本歯科大学を卒業後、奥羽大学・スウェーデン王立イエテボリ大学に所属して世界基準の歯周病学を研究する。経験した歯周病・歯周外科の症例は10000以上。現在は歯周病治療に日々励むほか、インプラントの歯周病トラブル(インプラント歯周炎)治療に取り組み、世界No.1インプラントメーカー ストローマン社の講師として後進の育成や予防歯科の啓発にも力を入れている。